2018年9月27日木曜日

有機化合物の表記法


その分子の形を示す方法の一つは構造式です。有機化合物は単純な物から炭素数が100以上の複雑なものまで多彩です。低分子化合物なら、結合を:で示すLewis構造や ー で示すKekule構造でも書き表すことができます。しかし、大きな分子では煩雑になってしまいます。

そこで簡略した表記であるLine 構造が一般的に使われています。書き方のルールは以下のようになります。

1.素および水素原子を表すCHを省略する。
2.CH結合の結合線を省略しCCの結合線のみとする
3.炭素原子が存在する位置で120°の角度をつけて折れ線を書く。
4.CH以外の原子や結合線は省略しない。

練習として、分子式がC5H12である全ての構造異性体をLewis構造、Kekule構造、Line 構造を書いてみましょう。2つの構造式が同一物かどうかなどの判断には線結合式が便利だと思います。一方、ある炭素原子に結合している水素原子数を調べるにはKekule構造が、ある原子の最外殻電子数を求めるにはLewis構造が良いでしょう。場合によって使い分ければよいと思います。
しかし、いつも自分にとって好都合の構造式が描かれているわけではありません。必要に応じていつでも相互に書き換えられることが重要です。Lewis構造⇒Kekule構造⇒Line 構造の書き換えはCHの省略ですから、簡単でしょう。逆の書き換えも必要です。Line 構造の結合の両端にはCH4-n が省略されています。nは見えている結合数です。炭素は原子価4ですから、見えている結合を差し引けば、結合している水素原子数が求められます。また、Kekure構造やLine構造では孤立電子対が省略されている場合が多いので、Lewis構造に書き換える場合は、それを補う必要があります。

また、Line 構造の炭素上に形式電荷がある場合は注意が必要です。炭素陽イオン(カルボカチオン)の場合は、その炭素は結合が3本で、空の軌道を一つ持っています。一方、炭素陰イオン(カルバニオン)の場合も結合は3本で、その炭素は孤立電子対を1つ持っています。さらに、省略されている水素原子数にも注意する必要があります。

2018年9月13日木曜日

ルイス構造式(点電子式)



有機化合物の構造や性質、反応機構を記述するために,きわめて有用な表記法です。有機化学の基本となるので確実に身に着けてほしい。
ルイス構造式の書き方
1.   構成原子に価電子(最外殻電子)を・示す。電子は、できるだけ空軌道を作らないように、そして、電子対をつくるように配置する。
2.   全ての構成原子が最外殻を満たすように(オクテット則)、そして、全ての電子が対になるように結合をつくる。第二周期元素の場合、オクテット則を超えて8個以上の電子を配置することは厳禁です。

例)CH4Oのルイス構造を描いてみましょう。各原子の最外殻電子を点で描き、電子対を作り、オクテットを完成するように共有結合を作れば、メタノール分子が完成すると思います。




また、電子を点で表記すると煩雑になるので、電子対を結合(-)で表記したもの(図の右側)がKekule構造です。

ルイス構造を描くといろいろなことは解ります。
l  全ての原子が最外殻を満たしています。
l  電子対には、共有結合に関わる共有電子対と関わらない孤立電子対がある。それらは、分子を壊さない限り、入れ替えられない。
l  電気的に中性の原子同士が1個ずつ電子を出し合って共有結合を形成しているので、分子全体も電気的に中性です。
l  CH4Oでできる分子中の電子配置は1種類です。

このような方法でもっと複雑な分子も組み立てられます。一挙に分子を組み立てられない場合は、まず構成原子の一部で小さな分子や原子団を作り、ブロック同士を結合させることを考えたら良いかと思います。その際、3員環や4員環を持つ分子や同一原子が連続する分子(炭素は例外)は限られているのでできるだけ除外した方が良いかと思います。

高校化学では構造がわかれば十分かと思いますが、ルイス構造からはもっと多くの分子情報が得られます。

共鳴構造
多くの分子は原子配置が決まると、電子配置も一通りに決まります。しかし、原子配置は同じでも、複数の電子配置が存在する分子もあります。CO2COのルイス構造式を考えてください。



CO2の場合はCOが2個ずつ電子を出し合って二重結合を作れば、“完全な分子”をつくることができます。
ところがCOの場合はそうはゆきません。COが2個ずつ電子を出し合って二重結合を作れば、Oは最外殻を満たすことができるが、Cは最外殻が6電子になってしまいます。両者の最外殻を満たすためにはCは2個そしてOは4個の電子を出し合って三重結合を作る必要があります。その結果、電子を多く出したOは+の電荷を持ち、少なく電子を出したCは-の電荷を持つことになります。いずれにしても“完全な分子”はできません。COの2つのルイス構造は、原子の配置は同一で、一つの電子対を移動させると相互変換することができます。このような関係を共鳴といいます。いくつかの共鳴構造を持つ分子は、そうでない分子に比べて安定になります。

形式電荷

原子は電気的に中性ですから、同数の電子を出し合って共有結合を形成すれば電荷は生じません。ところが、:C:::O: のように2+4の不平等な共有結合を形成すると電荷が生じます。これを形式電荷といいます。COは原子状態の最外殻原子数は4個と6個ですが、この分子ではCは5個、Oも5個になったとみなします(共有結合の6個の電子はCOで折半する)。計算上、原子状態より電子数が増えたCは-に、同様にOは+の電荷を持つことになります。
水分子とオキソニウムイオンで考えましょう。


左側は水素原子から電子1個失った水素イオンは+、水分子はOHが同数の電子を出し合って対等な共有結合を作っているので形式電荷はありません。右側のオキソニウムイオンでは赤で示したOの孤立電子対と水素イオンで共有結合を作っているので、計算上、Oは電子を1つ失ったので+の形式電荷を持ちます。
形式電荷は計算式(中性原子の価電子数ー共有結合数ー孤立電子数)で求められますが、計算に頼らず、構造式を見て求められるようになって欲しいと思います。
オクテット則に従う原子について、場合分けすると次のようになります(ホウ素のように6電子の分子を作る原子は当てはまりません。また、結合数が2つ以上違う場合も当てはまらないので、計算式を使ってください)。


・原子価通りの結合数を持つ原子:形式電荷なし。
・原子価より1つ結合数が多い原子:+
・原子価より1つ結合数が少ない原子
                      孤立電子対を持つ場合:-
                      孤立電子がない場合: +

つまり、構造式を良く見て原子価に異常のある原子に注目すれば良いのです。これまでに出たルイス構造式で見てみましょう。メタノールの場合はC(結合数4)、H(結合数1)、O(結合数2)全て原子価通りなので形式電荷はありません。二酸化炭素の場合もC(結合数4)、O(結合数2)なので形式電荷なし。2重結合のCOは、Cは結合数2なので計算式(4-2-2=0)から電荷なし、Oも原子価通りで電荷なし。3重結合のCOは、結合数の1つ多いOは+、Cの結合数は一つ少なく、孤立電子対を持つので-。H2Oは原子価通り、オキソニウムイオンのOは結合数が原子価より1つ多いので形式電荷は+になります。

次の化学種のルイス構造式に形式電荷があれば書いてみましょう。


このようにLweis構造を描くことによって、有機化合物中の各原子の電子配置が明らかになります。例えば、共有電子対をいくつ持っているか? 孤立電子対を持っているか? 電荷の有無は? 電子対を持たない空軌道が存在するか? などです。もちろん、形式電荷や空軌道は分子を不安定にする要因はない方がよいのですが、少しは例外を認めても良いかと思います。Lewis構造を描くことによって、その構造がどの程度不安定なのかもわかるかと思います。



2018年9月12日水曜日

有機化学の基本



有機化学は炭素化合物の化学。
地球上には100以上の元素が存在しますが、炭素の存在量は14番目。あまり豊富な元素ではありません。しかし、この炭素は生物にとって最も重要な元素のひとつです。私たちの体の中では酸素、水素に次いで3番目に多量にある元素です。

炭素の特徴は、
1. 炭素は4本の共有結合を形成しやすい。
2. 炭素は通常は電気的に中性ですが、結合の状況によっては陽イオン(カチオン)にも陰イオン(アニオン)にもなる。
3.炭素―炭素結合を作りやすい。
などです。

その結果、非常に多くの炭素化合物をつくることができます。地球上には天然物と人工物を合わせると3000万種を超えるといわれています。それぞれの有機化合物は様々な化学反応をおこします。高校化学でも有機化学反応が取り上げられていますが、その仕組みについては触れられていません。有機化学の勉強は反応を暗記することになってしまいます。ここでは、有機化学反応の基本的なしくみ(反応機構)を理解するという立場で見てゆきたいと思います。

ある有機化合物が反応して構造が変化する場合、構成する原子がバラバラになって、組み立てなおされるわけではありません。化合物中のどこか1か所の結合が切れて、他の原子団と再結合するのです。これが何段階か続いて反応が完結します。ごく少数の物を除いて私たちが入手できる有機化合物は全ての最外殻電子(価電子)は対を作り、全てのオクテットを満たしています。その1つの結合が開裂した時の切り口は次の4つです。

1.対を作らない電子を持つ炭素ラジカル
2.1つの電子対を失って、空の軌道を持つ炭素陽イオン(カルボカチオン)
3.炭素原子上に電子対が残された炭素陰イオン(カルバニオン)
4.炭素原子上に空軌道と孤立電子対の両方を持つカルベン

非常に単純化されますね。しかも、1と4を経由する反応は少数です。大部分の有機化学反応は2あるは3を経由するものです。